Promise <2>

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いつもの場所、それはルミの住むマンションと俺のアパートまでの間にある公園。車で10分程の距離だけど、あいつと会わなくなってから通ることはなかった。「変わらないな」当たり前か。周辺の店舗が数軒見覚えのない店構えになっている程度だ。公園なんてころころ変わるわけがない。

しばらく手入れをしていなかった車をピカピカに磨いた。最新の歌をMDに録音もした。仕事終わりにしたものだから、残業よりも疲れたかも。あいつに会ったとき、俺はどんな顔をするのだろう。自分では想像が出来なかった。

「待った?ゴメン、出掛ける前にちょっとあって」
躊躇することなく、ルミは俺の車の助手席へと座った。
「初めて二人で行った海、覚えてる?あそこがいいんだけどな」
「覚えてるよ。じゃぁ車出すぞ」
「よろしく!」
よそよそしさもなく、会わない間どうしていただとかお互いに言い出すことなく、ドラマやワイドショーのネタ、世間話をひたすら話し続けた。違和感のない空間だった。俺たちは本当に数ヶ月のブランクがあったのかと不思議な思いが巡った。

「わぁぁぁ、キレイ!やっと着いたね。運転ご苦労!」
そう言うと車から飛び出していった。サンダルを脱ぎ、素足で砂浜を歩く姿をしばらく車から見ていた。
「ケント、何してるの?早くおいでよ!」
そう大声で呼ぶルミに促され、眩しい日差しの元へと降り立った。

人影がまばらな海岸は“俺のもの”的感覚がして好きだ。だけどどうして海だったのだろう。約束、確かにした。ということは『海に行こう』と約束をしていなければ、再び会うことはなかったのだろうか?嬉しい気分と裏腹に、心の底では沈んでいる俺がいた。聞いてみようか、やめておこうか、ルミに近づくまでそんな葛藤が続いていた。
「やっぱまだ水が冷たい。でも気持ちいいよ。ケントも足を…」
話しかけているルミを抱き締めてしまった。どうしようもない衝動だった。言葉より先に体が勝手に動いていた。
「ゴメン、ハハハ。急にゴメン!」
自分の想像していなかった行動に驚いていた。ルミの体から手をほどき、濡れた靴を脱いだ。顔が見られない。
「ビックリしたよ、もう!」
そう言いながらルミは歩き出した。その背中を追いながら俺も歩き出した。

「こんなにゆったりした時間って久し振り。太陽ってこんなに眩しかったって思うほど、空を見上げたのも久し振り。ありがとう、連れてきてくれて」
「なんだそれ。おまえそんなに余裕がなかったのか?」
「うーん、仕事が忙しかったのもあるし、色々あってね」
色々?色々何があったんだって、また言葉が口から出てこない。
「ケントは?ケントはどうだったの?」
「俺?俺も仕事がメチャクチャ忙しかった。残業も休日出勤もいっぱいあったなぁ。午前様なんてざらだったし、かといって手当は付かなかったな。サービス残業ってやつだ」
その言葉を最後に砂浜に座り込み、ただ打ち寄せる波を見ていた。どの位の時間が過ぎただろうか、ルミから「帰ろうっか」と切りだされた。
もう、なのか。聞いて欲しい言葉や聞きたいことがあったのに、結局俺は口に出すことが出来なかった。

帰りの車中では会話が殆どなかった。時折曲に会わせて小さな声で歌ってみたりした。MDをラジオに切り換えた時、エア・サプライの『渚の誓い』が流れてきた。前を見ていたルミはいつの間にか横を向いていた。そういえば付き合い始めた頃に「こんなメロディーなんだけど、知らない?」とルミが口ずさんだ曲だった。エア・サプライのアルバムを持っていて、曲名を教えてあげたらすごく感動されたことがあったっけ。そんなことが遠い昔のように思えた。

「今日はどうもありがとう。じゃぁね!」と、以前と同じ言葉でルミは別れを告げた。次に会う約束をしない、まるで恋人だったときと同じように。公園をすり抜け、ルミの姿が見えなくなるまで俺は見送った。

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創作部屋〜Promise〜2003.6.25

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