転<ten>

「連絡が来ないの。それが良いことなのか悪いことなのかが解らなくて…」

彼女は大きな目に涙をためながらそう言った。「相談がある」って呼び出しは恋人との仲のことだったのか。私は私で悩みがあるっていうのに、何で私が恋愛相談に乗らなきゃいけないのよ。

「あなたからは連絡しないの?」

私の問い掛けに彼女はこう答えた。

「最近ね、こっちから連絡するとひどく迷惑そうにされて…。だから向こうから電話をしてくるのを待ってしまうの」

知らなかった。あいつはあなたにそんな態度を取っていたの?

「だからね、もうダメなのかなって思ってしまうの」

そう思わせるような雰囲気を出してたの?

「どうしたら良いと思う?」
「どうしたらって、とりあえず会えるように電話してみたら? 怖がってたって先には進まないでしょう」

正論よね? おかしい返答はしていないはず。

「…そうね、そうするわ。今電話してみていい?」

しなさいよ、あいつは出ないけどね。出るはず無いんだから。

「出ないわ。迷惑そうな口調をされても、拒否されることなんて無かったのに…」
「じゃぁ行ってみたら、彼の部屋に。直接会って確かめてきたら?」

部屋には居るんだから。

「……」
「だって “良いことなのか悪いことなのか解らない” のをずっと引きずってて苦しくないの? どちらにせよ早くハッキリしてもらった方がいいじゃない!」

そう、ハッキリしないのを待つのは辛いわ。

「そうね、行ってくる。ズルズルしない方がイイね。ゴメンね呼び出したのに」
「また連絡してね」
「またね」

私は彼女が去っていくのを見送った。


ハッキリしなかったのよ、あいつは。これからどうしてくれるのか言ってくれなかったのよ。待てなかったのよ、私は。
あいつは部屋に居る。息もせず、冷たくなって部屋に居る。
あいつと私が付き合っていたことは誰も知らない。あの部屋に私の指紋はない。
二人の仲は最近うまくいっていなかった、私は傍観者に成りきる、それでいいのよ。
六月の雨音を聞きながら、他人事のように証言を考える。

創作部屋〜転<ten>〜2004.6.18

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